Latest / 英国ドラマタイム / #94 美しいお屋敷の「知られざる顔」——日本の歴史が、なぜイギリスの北の地に刻まれているのか?
Transcript
- 0:09英国ドラマタイムへようこそ。この番組は、イギリスの歴史ドラマが大好きな私が、ドラマや映画のおすすめ、ロケ地の秘密、当時の暮らしまで深掘りしてご紹介しています。物語の背景を知ると、作品がもっと楽しくなります。
- 0:26海外で、ちょっとした田舎の観光地なんかを歩いているときに、ふと横を通り過ぎた人が日本語で話をしていたり、お店に入ったら日本のものが並んでいるのを見たりすると、なんかちょっと嬉しいなって思ったことありませんか?
- 0:44別に知り合いのわけでもないし、日本にいれば当たり前にあるものなのに、なんであんなにちょっと嬉しかったり、誇らしいような、そんなことを感じるんでしょうかね。
- 1:00今日はイギリスの北部にあるカントリーハウスで、思いがけず日本と出会って、心が動いたときの話をしたいと思います。
- 1:09場所はクラッグサイドというカントリーハウスです。そこで出会ったのは、ただの日本のものという言葉では片付けられないような、物語を秘めた一枚の写真でした。
- 1:24先ほどお話しした日本という存在に海外で出会って、何かちょっと心が温かくなる感じ。私はイギリスで美術史を学んでいた時も、そういった瞬間が何度もあったんですね。
- 1:41それは、例えば浮世絵が印象派の画家に衝撃を与えていたこととか、有田焼や今利明の陶器、漆器を出てきた家具などがヨーロッパの上流階級を取り子にしていたこと、
- 1:56そういったことを私は当時ほとんど知らずにイギリスに行ったんですよね。
- 2:02そういったことを実際に学んだり、英語で書かれた本に当たり前のように書かれていたりして、その時に二つの気持ちが同時に湧き上がってきました。
- 2:15日本人なのにこんなに評価されていたことを知らなかったというショックな気持ちや、それから日本ってこんなに素敵なものを作っていたんだな、こんなに世界に愛されていたんだというちょっと誇らしい気持ちです。
- 2:31そういったものを本で学んだり日本で学んだりするのではなくて、実際に現地で目の前にそういったものが飾られているものを見たりすることで、
- 2:44遠く離れたイギリスの地で日本の文化が本当に息づいているのを見た時の驚きは、やっぱり格別なものでした。
- 2:53今日お話しするグラックサイドというお屋敷もまさにそんな場所です。
- 2:58そこには美術品だけではなくて、もっと生々しくて深い日本とのつながりが残されていたんです。
- 3:07私は今から3年前にイギリスのノーサンバーランドという地域にあるカントリーハウスを訪ねました。
- 3:15ノーサンバーランドはイングランドの最北端の州で、もうちょっと北に行くとスコットランドという場所になります。
- 3:23ロンドンからは電車で3、4時間かかるイングランドの中でもかなり北の自然豊かな田舎です。
- 3:31そんな緑豊かな場所にあるビクトリア時代の豪華なお屋敷、それがグラックサイドです。
- 3:39そこはビクトリア時代の最先端が詰まった場所で、敷地内の湖を利用した水力発電で、世界で初めて電球が灯った個人の邸宅としても有名ですし、
- 3:54一歩中に入ればフィリアン・モリスの壁紙とか、ラファエル全般のステンドグラスが並ぶ、本当に美しい空間が広がっていました。
- 4:05そして、その邸宅の中を巡っていたんですけれども、見どころの一つの巨大な大理石でできた大きな暖炉がある大瀬妻に飾られている一枚の写真に目が止まりました。
- 4:21テーブルに何枚か写真が並べてあったんですけれども、
- 4:25その中に皇室の菊の門の入った銀の音スタンドの中に、一枚の男性の白黒写真があったんですね。
- 4:35それが若返し頃の今の上皇陛下の写真だったんです。
- 4:41秋人というサインも入っていました。
- 4:44なんでここに?ってちょっと思いますよね。
- 4:47今日は、その謎をたぶって見えてきたクラックサイドと日本の意外な、そして少しダークな繋がりをお話ししたいと思います。
- 4:57クラックサイドはナショナル・トラストが管理しているカントリーハウスです。
- 5:02このお屋敷を作ったのがウィリアム・アームストロングという人物。
- 5:07彼は元々弁護士だったのに、エンジニアに転身して大成功した人なんですね。
- 5:14そのアームストロング卿が一体何をして序盤の富を築いたのか。
- 5:19彼が作っていたのは巨大なクレーンや船、そして兵器でした。
- 5:26ウィリアム・アームストロングは1810年生まれ、元々は弁護士だったのに工学への情熱が抑えられないと公立事務所を辞めて工場を建てます。
- 5:37最初はクレーンや橋を作っていたのですが、やがて大砲の設計で当学を表して、その後アームストロング砲が世界の戦場を変えたと言われるほど名声を得ていました。
- 5:51時は幕末から明治へ、一刻も早く近代的な国になりたかった日本にとってアームストロング社の軍艦や大砲は喉から手が出るほど欲しい最先端の力だったんですね。
- 6:061860年代には薩摩藩や幕府がすでにアームストロング砲を輸入していた記録もありますし、幕末の動乱期から日本はこのイギリスの工場に頼り続けていました。
- 6:19明治政府になってからも調達は続いて、日清戦争や日露戦争へ日本の近代化を陰で支えてきたのがアームストロング社でした。
- 6:30実は日本海軍はアームストロング社にとって世界で2番目にお金を使ってくれる超ご得意さまでした。
- 6:39例えば日露戦争で東郷平八郎率いる艦隊が海の上で放った巨大な大砲のほとんどがこのイギリスの工場から日本へ渡ったものだったようです。
- 6:52私がこの場所でうっとり眺める美しい壁紙や贅沢な暮らしは、実は日本への平気ビジネスという側面で支えられていたというその事実に気づいたときに、ちょっと何とも言えない複雑な気持ちになったんですね。
- 7:11そしてもう一つ、このお屋敷の中には日本と深い絆を象徴する場所もありました。
- 7:18それがジャパニーズルームと呼ばれる部屋です。
- 7:22そこには日本の美しい美術品や家具が飾られていたのですが、この部屋を作ったのが3体目のアームストロング男爵です。
- 7:32代々続いてきた日本との特別なつながりを形として残そうとしたんですね。
- 7:38このクラックサイドと日本の交流の真ん中にいたのが徳川頼貞、タメ子夫妻だったんです。
- 7:46この徳川頼貞さんは紀州徳川家の当主で、奥様のタメ子さんは昭和天皇の義理のおばにあたる方、まさに日本を代表するようなご夫婦なんですが、このご夫婦は何度もクラックサイドを訪れているんですね。
- 8:06お部屋にはご夫妻から贈られた浮世絵なども飾られているんですが、兵器というビジネスの関係を超えて、彼らはこの場所でどんな会話を交わしていたんだろうなと思いました。
- 8:20さて最初にお話しした坊主妻に置かれていた一枚の写真のことです。
- 8:27あの写真が撮られたのは1953年です。
- 8:32当時若干19歳だった当時の皇太子秋人信の今の上皇陛下ですね。
- 8:40陛下はエリザベス女王の大冠式に出席するために昭和天皇の命題としてイギリスに向かわれました。
- 8:481953年の3月30日、横浜港から船で出発して7ヶ月をかけて14カ国を回るという本当に長い長い旅路でした。
- 9:01でもこの旅は大冠式に出席するという華やかなお祝いだけではなかったんですね。
- 9:08当時は終戦からまだ8年、日本が独立を回復してからわずか1年しか経っていない頃です。
- 9:17イギリス国内にはまだ敵だった日本に対して複雑で厳しい感情が根強く残っていた時期です。
- 9:25当時の外務省の記録にもこの訪問を日英親善に結びつけて考えるのはあまりにも現実的ではないと冷ややかな空気が記されているほどでした。
- 9:37イギリスと日本の関係がまだヒリヒリとしていた時期に若き日の陛下をぜひ我が家へと招待したのがこのクラックサイドのアームストロング邸だったんですね。
- 9:49陛下はここに8日間滞在されたようです。
- 9:52お屋敷のお説明に大切に置かれた写真はこの時のものだったんですね。
- 9:58実は今でもネットを調べると陛下がこのクラックサイドでリラックスしてテニスを楽しまれている写真も残っていたりします。
- 10:08戦後間もない厳しい状況の中でイギリスへ渡ってこの北の町でお屋敷の人たちとどんな会話をしてどんなふうに過ごされたのか
- 10:2070年以上前の白黒写真の中にある若き日の陛下の顔を見ていると当時の緊張感とかそれを解きほぐそうとした人たちの温もりも伝わってくるようでちょっと考え深いものがありました。
- 10:36実はこのクラックサイドのことを知り合いのイギリス人などにも何か聞いたんですけれども知らないなという人が多かったので
- 10:47ちょっと遠い場所にある場所だからなのかそれとも兵器で反映した場所だからというそういった歴史もあるからなのかななんてちょっと考えたんですが
- 11:01でも私はこの場所を訪れてよかったなと思っています。海外を旅しているとこうして思いがけないところで日本の足跡に出会う瞬間があります。
- 11:14その度に日本という国は世界からどう見られてどう歩いていったんだろうなと考えさせられるんですね。
- 11:23自分のルーツを遠く離れた場所で再確認する。これが旅が私にくれる贈り物の一つなんだなと思います。
- 11:34このクラックサイドはナショナルトラストが管理しているので今も一般公開されています。
- 11:40ロンドンからは少し遠いんですがわざわざ行く価値のある本当に美しい場所でした。
- 11:47最後にお知らせです。カントリーハウスをさらに深く楽しむオンラインお茶会を開催します。
- 11:53前回はお屋敷の壁に秘められた絵画のルールをテーマに5人の参加者の方と楽しみました。
- 12:00フリートークでは自分ならどんな絵を飾りたいのかという妄想トークで盛り上がったんですよ。
- 12:07そして5回目となる今回のテーマは石と物語、地域が含むカントリーハウスの色と記憶です。
- 12:16イギリスを旅するとなぜか街全体が絵になっていますよね。
- 12:21カントリーハウスも村や石の壁も実はその美しさには理由があってその答えが地域の石にあるんですね。
- 12:32今回は私の大好きなマシューライスさんの本をご紹介しながら、
- 12:36その土地の石がそのまま土地の色になっているというイギリスならではの話もご紹介したいと思います。
- 12:44さらにカントリーハウスにはお金も権力もローマへの憧れも石の中に込められていて、
- 12:51民家とはまた違う特別な物語もあります。
- 12:54石を通してみるとカントリーハウスが全く違うものに見えてきます。
- 13:00知識は必要ありません。石にそんな物語があるんだなという発見をお茶を飲みながらゆったりと楽しむ時間です。
- 13:08ぜひお気軽にご参加ください。
- 13:11開催日は5月16日の土曜日8時から9時です。
- 13:16申し込みの締め切り日は5月9日です。
- 13:19詳細は番組の概要欄をチェックしてみてください。
- 13:24さて今日はちょっと喉の調子が悪くて大変聞きづらい声になっていて申し訳ありませんでした。
- 13:31さて次回はちょっと雰囲気を変えてお届けします。
- 13:36ご紹介するのはジェーン・オースティンの名作エマ。
- 13:40自分では恋のキューピット気取りだけれども、実は一番自分の恋に疎い。
- 13:46そんな愛すべき主人公をエマが繰り広げるイギリス田園地帯の物語です。
- 13:52お楽しみに。