
村上龍氏絶賛 小説『カクテル』の詳解
1. 導入(イントロダクション)
1988年、世界中の劇場を熱狂の渦に巻き込んだ映画『カクテル』。若きトム・クルーズが眩しい笑顔でカクテルシェーカーを宙に躍らせ、フレア・バーテンディングの華やかなパフォーマンスとともに恋と成功を掴み取る——。多くの人々にとって本作は、80年代ハリウッドを象徴するポップで爽快な青春成功ストーリーとして記憶されているはずです。
しかし、その煌びやかなスクリーンの向こう側に、全く別の顔をした「もうひとつの『カクテル』」が存在することをご存知でしょうか。
眩しいグラスの底に溜まっていたのは、泥と吐瀉物、コカインと都会の虚無に塗れたマンハッタンのヘドロでした。原作小説のページを開くとそこに広がっているのは、映画の明るいパブリックイメージを粉々に砕く、極めて暗く、毒々しく、シニカルな「人生詰んだ男」の真実なのです。
原作となる小説『カクテル』(ヘイウッド・グールド著、1984年刊/芝山幹郎訳、文春文庫、1989年刊)の主人公ブライアン・フラナガンは、映画で見せた野心に満ちた爽やかな青年とは根本から異なります。
物語に登場するフラナガンは、38歳前後の境界性アルコール依存症(アル中手前)の中年男。自称・作家志望で、端正な容姿だけを武器に無数の一夜限りの関係を重ねてきましたが、人間としてはすでに人生の底をつきかけています。…
The skinny
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